L130×W70×H60mm
真鍮
2010
ミズカマキリ(水蟷螂)は、カメムシ目・タイコウチ科に分類される水生昆虫の一種。その名の通りカマキリに似るが、全く別の仲間である。
一見してその名の通りカマキリと体形も顔つきもそっくりなので、同じ種と勘違いすることは否めない。他の生物を捕食するといったライフ・スタイルが相似的に、直翅目(一説には独立した蟷螂目)のカマキリと半翅目のミズカマキリを結び付けている。本来は縁もゆかりもない種同士が、遺伝的、分類学的には希薄な関係ながら、偶然と必然からたまたま、ああいった形態に陥ってしまったのだろう。
体長40-50mm。水田や池沼の水中に生息する。タイコウチなどに比べて深い水深を好む傾向があるが、これは同じニッチを占める2種が共存するための「棲み分け」だと考えられる。
水中での呼吸に使用する2本の鞘状の呼吸管は非常に長く、体長ほどもある。その細長い体ゆえか飛行能力は水生カメムシ類の中で最も高く、昼間でも頻繁に飛ぶ。これは生息範囲を広げるのに有効で、市街地近くの池沼でも観察されることがあるのは、そのためである。近い仲間のタガメやコオイムシが個体数を激減させているのに対して、比較的現代環境に適応した種とも言える。
形態からも想像できるように肉食性で、他の昆虫や小魚、オタマジャクシなどを餌とする。優れた飛行能力を有する反面、水中での動きはやや鈍く、水草などに潜んで獲物をじっと待つ。鎌状の前肢で捕らえた獲物には口吻を刺し、消化液を送り込んで溶けた肉液を吸う(体外消化)。消化には非常に時間がかかり、大きな獲物なら時に15時間以上も採餌し続けることがある。吸収した後の死骸はそのまま捨てる。
水というのは生物にとって命の故郷であると同時に、とても危険な環境でもある。鰓(エラ)という呼吸器官を捨て去っって地上に出た以上、それ以外の限界がある手段を講じなければ、水棲は不可能である。丘に上がった生物は広大で自由な生活空間を得たが、リスクも拡大した。一方で水中は依然豊かな生命活動を営むだけの魅力を醸している。呼吸法を克服して水中に戻っていったのが、水棲昆虫なのであろう。
この作品は、首と各種脚はもとより鎌状の前肢も可動。体色を再現するために全パーツを真鍮で制作。細長い脚から生み出される又下の空間と独特な姿勢により、今までの作品とは違った雰囲気を醸し出している作品である。